バレンタインの思い出(あるいは自伝的広島お受験事情)

 注)もう20年も前のことなので、現在と事情が違う部分が多々あります。

 さて、安藤の対人関係の基本的姿勢は、「男嫌いの女好き」につきる。

 社会生活に支障をきたすほどのことはないが、男と接するのは、なんだかしら
 気が重い。男社会に身を置くのは難儀だ。

 小学生高学年の時、担任から中学受験を勧められた。母は、張り切り、安藤を
 塾に通わせ始めた。実に困ったことになったと思った。なぜなら、受験する中
 学というのは、中高一貫教育の男子校だからだ。毎週のように繰り返される進
 学塾の模試では楽勝圏内だったので、母の期待は高まっていた。

 6年もの間を男だけで過ごすなんて、イヤだイヤだそんなこと絶対にイヤだ!
 と思いながら受験したら、運良く、S中学もG中学も落ちた。塾長は、「最後
 のニケ月を死に物狂いでやれば圏外の子でも通ることはあるし、ダラダラすご
 せば圏内でも落ちて当然」と安藤をしかった。

 安藤は、無事、共学の公立中学(無試験だけどね)に入学することができた。
 やはり、クラスのせめて半分くらいは女の子でないと殺伐としていかんよね。

 クラスの半分くらいが女の子という環境になれると、それでもまだ男が半分も
 いて、どうも殺伐としていかんので、高校受験の時、担任の美人体育教師に
 「安藤、実は女子高にいきたいんだけど、希望としては、セーラー服のH女子
 高あたりかな?」と半ば本気で言ったら、ビンタされた。女子校にひとりだけ
 通う男の子なんて夢みたいでいいと思わない?

 それはそうと、この美人体育教師は、よく生徒をビンタする教師であったが、
 安藤は、「美人教師にビンタされる」というシチュエーションが大好きで、し
 なくてよいイタズラを繰り返したものだ。よく考えてみて欲しい。一生の間で
 美人にビンタされるなんてそうそう経験できるものではないぞ。それを毎日の
 ように味わえるのだから、ちょっと病みつきになっても不思議ではない(でしょ?)。

 てなわけで、安藤の女子高進学作戦はあえなく頓挫した(あたりまえや)。

 高校受験は、共学の公立高校に入らないと、滑り止めの男子校に行く羽目になる。
 このときばかりは滑り止めに行かなくてすむように、と、ちょっと本腰を入れた。

 無事、共学の高校に入学して、すぐに同じクラスの目立つ女の子達を誘って、
 アイススケートに行った。広島にも常設のスケートリンクがあったんだよね。
 スケートってのは、もちろん、一番手っ取り早く合法的に手を握るためだ。そ
 の翌週には、なんと上級生の怖い人たちに、校舎の裏に引っ張り込まれて脅さ
 れた。

   「あの子らは、わしらが目をつけとるんじゃけぇ、手を出すな」

 幸い、暴力沙汰にはならず、穏便に話しを終えたんだけど、すっかりビビリあ
 がった安藤は、「もう学内の女の子には手をだすまい」と固く心に決めた。

 共学校のバレンタインデーってのは、なんだかしらよかったですね。数日前か
 ら何やら皆、妙にソワソワしちゃってね。義理チョコを大量に配るというよう
 な時代ではなかったから、そりゃ、みんな真剣さ。安藤、学内で手は出さない
 って、心に決めていても、バレンタインデーは女の子の方からくるんだもん、
 しょうがないじゃない。というわけで、意外な女の子からチョコがきたりして、
 うれしかったなぁ。意外すぎてちょっと困るぞというものもあったが。

 話しは戻るが、中学受験の時の塾の席順は、講師のまん前の特等席から、模試
 の成績順で並ばされた。席順は、毎月の模試の成績で変動したけど、G中に受
 かった甘木君(甘木というのは某を分解した架空の名前ね)とは何故か席がい
 つも近くて、仲が良かった。甘木君は、あんまり男っぽくなかったので、それ
 がよかったのかもしれない。安藤が高校生になると、G高校に進学した甘木君
 とは時々西広島駅で会うようになり、電車の待ち時間などに立ち話をするよう
 になった。

 高二のバレンタインデーは、それまでで質、量ともに最高の収穫があった年で
(といっても安藤のことだからたかが知れているが)、安藤はウキウキした日々
 をおくっていた。その数日後、甘木君と街で出会った。このころの甘木君は、
 ちょっとした二枚目になっていた。もともと線の細いカワイイ小学生だったん
 だけど、高校二年ともなると、背も高くなり、かなりイイ線いく男の子になっ
 ていた。

 「甘木君、バレンタインどうだった?安藤今年はウハウハよ」
 「ほら、甘木君、男子校はだめよって去年言っていたじゃん」
 「今年は数個もらったんだけどね、中に一人、『今、告白しておかなくちゃ一生
 後悔するから勇気を出してチョコをおくる』って、夜、わざわざ家に手作りを
 持ってきたヤツがいた」
 「へぇ、情熱的ね、で、どこ高校の子?カワイイ?どんな子?ね?ね?教えて」

 「クラスメイトなんだけど・・・」


 安藤トロワー@兼業主夫(本業主夫、副業会社員)