ラ・セッテ

 広島市中区広瀬北町2-28-1 TEL:082-297-1207 11:30-15:00 18:00-23:00
  月休(祝の場合振替) P有

 ランチ (1,600円、2,000円、2,500円、3,500円)、
 ディナー(4,000円、5,000円、7,000円)、夜はアラカルトもある

 かつて「ヴィアーレ」の看板シェフだった、北村さんが独立して始めた店
 だ。僕の経験からすると、こういう場合、良くなるか悪くなるかのどちらか。
 評価が変わらないということはほとんどないと思う。
 
 独立前と同じ料理を出したのでは客に飽きられ、味が落ちたと言われることが
 多いが、この店の場合は逆に、以前よりも向上したように感じた。
 作る人が同じなのだから、基本的な傾向は変わらないけれど、繊細なだけでは
 なく、焦点が定まってきたという印象。繊細な料理の場合、茫漠とした料理を
 作っても、何となく上品に見られることが多く、逆にそれでも喜ばれたりする
 のだが、焦点を定めるのは難しい。ワイルドな料理ほど焦点は定まり易いのだ。
 
 実は開店早々に一度訪れ、その時も素晴らしいと感じたが、ランチだったので
 評価は保留とした。しかしその後、夜に訪れることはなく、再びランチに訪れ
 てしまったのだが、3,500円のランチをお願いしたので、昼のみとはいえ、とり
 あえず情報を挙げることとした。
 
 今回は車で訪れたが、帰りは妻が運転してくれることになったので、遠慮なく
 ワインも楽しんだ(ただし僕の奢り)。コース選定の際は、特に高いコースを頼
 むつもりはなかったのだが、見比べるとLa Setteコースが価格以上に魅力的だ
 った。

 前菜にホワイトアスパラが出るし、パスタもその他のコースとは素材や組み合
 わせが異なる。メインがちょっと弱めだけど、内容的には夜のコースに近い内
 容ではないかと感じた。
 で、僕は昼なので軽めにモレッティ(イタリアのオールモルトビール)を、妻は
 サンペレグリノを頼んでスタート。パンは新タマネギの自家製らしきフォッカッ
 チャと、アンデルセンのバケットが、オリーブオイルと共に供される。そして、
 前菜の盛り合わせと続いた。内容は、人参のピュレとコンソメのジュレ、豚肉
 と胡桃のパテと北海道ジャガイモのピンチョス仕立て、三良坂フロマージュ
 (モッツアレラ)のムースとフルーツトマト・イチゴ・パロマ産生ハム・セルバ
 チコ、野菜のテリーヌ寄せにほんのりアンチョビの効いたソース、ラタトゥイユ、
 軽くスモークした帆立貝柱に細切り野菜と茹でた麦の6種。
 人参のピュレは「ヴィアーレ」時代からの定番だけど、やはり旨い。今回のは
 コンソメのジュレと合わせてあったので、やや濃いめの味だった。
 ピンチョスは豚肉と胡桃も良かったが、ジャガイモも旨かった。品種は何だ
 ろう?インカの目覚めとは違うし、キタアカリかな?と思ったり。
 
 モッツアレラのムースは前回も出た。そのときはハムが刻んで入っていてそれ
 も旨かったが、今回も旨かった。イチゴと生ハムって意外に合うし、フルーツ
 トマトも当然旨い。
 
 ソースは少量のバルサミコだった。野菜のテリーヌ寄せはしっとりとして各野
 菜の風味が損なわれていない。そこへほんのりとアンチョビが効いたクリーム系
 のソースが少量合わせてある。野菜料理がこれだけ旨いのだから、センスいい
 なぁと心から思う。ラタトゥイユも定番中の定番だが、煮過ぎて風味が飛んだ
 りしていないし、野菜がゴリゴリすることもない。しっかり水分が飛んで凝縮
 感があるし、できそうでできない仕上がりだ。帆立は生の状態から軽くスモー
 クしてある。細切り野菜との相性が良かった。前菜は盛り合せなのでどれも少
 量だが、味の濃いものから薄いものまでメリハリが効いているし、野菜が豊富
 に使われている。肉系は生ハムと豚肉が少量のみ。この辺りが北村シェフらしい。
 
 続いて前菜の2皿目は伊産ホワイトアスパラ、筍と緑大豆のアンティカルダ・ヴ
 ォーヴァソーデと書いてあったが、最後の二つの言葉はどういう意味か不明。
 訊けば良かったのだが、白ワインに突入していたので、すっかり良い気分にな
 っていたのだ。ワインはグラスでお願いし、一杯700〜950円まで3種の品揃え。
 きちんと葡萄品種や特性を教えてくれ、複数の地品種がブレンドされた2002年の
 ものを頼んだ。これがしっかりした味で、一口目から開いていて、とても満足
 できた。グラスワインでこのクオリティが出てくるなら、量が飲めない人はグ
 ラスで充分と思う。
 
 ホワイトアスパラは今年初めてだったが、やはり旨いなぁと再確認。
 しゃっきりと仕上げてあり、生っぽさを感じさせるほど。茹でてそのまま出し
 たのか?と思うような味だが、下味は付いている。筍もしゃっきりして水っぽ
 さを感じさせなかった。ソースは茹で玉子を細かく刻んで味付けしたものかな?
 素材の味を邪魔せず、しかし、当然だけど単なる茹で玉子ではなくて、とても
 良かった。上から一枚、山椒の葉がはらりと散らしてあったのは面白かったな。

 続いてパスタ。僕は厚岸産アサリと菜の花のタリアテッレ。妻はイカ墨を練り
 込んだストラッチ・イカのラグーソースだ。タリアテッレは、幅1cmほどでかな
 り薄め。たっぷりのアサリの剥き身と菜の花、ソラマメ、トマトと和えてある。
 オイルの味はほとんど感じさせず、最後にソースが残ることもなく、すうっとさ
 らりと食べさせる。どの料理も透明感があって、素材そのものを食べている感じ
 なのに、単に良い素材を揃えただけの料理とは異なる。

 何も考えずに食べれば、いい素材だなぁで終わるのだが、じっくり味わうと、素
 材の味を補うように、料理として成立するように、縁の下の力持ち的な仕事がた
 くさん施してあるのがわかる。
 僕は、素材に対する視線が優しい料理だなと感じた。それぞれの素材の個性を活
 かせば良いのであって、ダメな素材はないんだと主張しているような印象だ。

 妻のストラッチは3cm角のラザニアのようなパスタで、噛み締めると小麦とイカ墨
 の味がじんわりと口に拡がる。旨い。これは噛み締めるパスタだな。
 
 そして、メインは僕がイベリコ豚のコンフィ、妻がカレイのセモリナ粉ソテーだ
 った。この辺りで赤のグラスワインに変え、やはり3種類の中からモンテプルチ
 アーノ・ダブルッツオの良さそうなのがあったからそれを選んだ。赤ワインも白
 ワイン同様満足できるもので、冷えすぎてもいないし、一口目からきちんと旨か
 った。イベリコ豚はゼラチン質が豊富なので、コンフィにしてもねっとりした食
 感が出てパサつかない。表面は揚げたようにカリカリだし、味がしっかり凝縮し
 て上々の旨さだった。そのままソテーしても充分旨いし、肉が縮むから、コンフィ
 にする店は少ないけれど、これは僕は気に入った。
 
 デザートは男性と女性を分けているのか、僕と妻の内容は全て異なった。僕は、
 チョコレートのアイスクリーム、ティラミス、イチゴをパイ木地で挟んだものの
 3種。妻は、プリン、ヨーグルトのアイスクリーム、ガトーショコラだった。
 概ね、男性のほうが高カロリーだが、いかにも男性が好みそうな内容だった。ど
 れかが抜群に旨いという感じではないが、一つ一つ丁寧に作られていて、しかも
 洋菓子店のデザートではなく、レストランのデザートらしさが感じられた。専任
 のパティシエがいるのかもしれない。それと飲物は僕がエスプレッソをもらって
 大団円。昼からこれほど満足したのは本当に久しぶりだ。
 
 また、サービスが特筆すべき素晴らしさで、車で乗り付けたらすぐに迎えに出て
 くれるし、小さなことでもきめ細かく対応してくれる。そして、店に入ったとき
 と、店を出るときに、シェフが必ずこちらを向いて挨拶してくれる。
 おそらくそのためなのだろう、厨房の一部が窓ガラスになっているのだ。フロア
 はかなりの広さで、テーブルの並びはゆったりめ。どのような客をどこへ案内す
 るか、きちんと考えられているようで、子連れの客は一方の端、デートの客はも
 う一方の端と振り分けるようにしていた。

 ただし、予約していなかったり、満席に近くなったり、子連れ客が多かったりす
 ると、思うようにはならないようなので、座りたい席が決まっているなら、予約
 する時点で希望を伝えると良いだろう。そう、ここは子連れOKを前面に出してい
 て、実際、僕たちが訪れたときも子連れがいた。しかし、そのためにBGMの音楽を
 少し大きめにしてあったし、その時の子連れ客は子供を勝手に立ち歩かせたり、
 大声をあげることを許したりはしなかったので、雰囲気は壊れていなかった。
 
 現状では破綻していないようだが、ファミレスのような雰囲気でうんざりしたと
 いう話を聞いたことがあるし、そういう状況が起こり得るだろうと容易に想像で
 きた。
 店は広いし、スタッフは子供にも優しく、叱ったりしないからだ。しかし、躾の
 できない親子が増えれば、それ以外の客足が遠退くし、そうなると子育て中の人
 が楽しめる貴重なレストランが失われるかもしれないのだから、くれぐれも気を
 付けてほしい。その際に気を付ける方向は、子供の振る舞いではなく店の雰囲気。
 子供が何をしたから良いとか悪いとかではなく、結果として店の雰囲気が壊れれ
 ば全てNGなのだ。
 
 僕が訪れたときは、デート客、子連れ、パワーランチ、大人の家族連れが明るい
 大フロアに点在していて、それはもう、泣きたくなるほど素晴らしい光景だった。
 これぞレストラン!と、心の中で快哉を叫んだ。こんな店が広島にも生まれたの
 だ。僕はこれほど素晴らしい店になっていたとは知らなかった。
 昼に訪れただけだが、星5つを考えたくなるレベル。シェフの思想が隅々まで行き
 渡った、得難いレストランと思う。
 夜に再訪したら、きっと僕は星5つを付けるだろう。
 それはもはや、確信に近いものがある。 (06.05)