一口(ひとくち)

http://hamanet.jp/kaishoku/detail.aspx?txtKshopcd=1373

 広島県尾道市久保2-20-2 TEL:0848-37-9723 17:30-23:00 日休

 穴子130円、鰯200円、あさり550円、牡蠣220円(3月まで)、鯨220円、キス220円、
 蛸220円、にし200円、とり貝280円、串カツ120円、とんかつ120円、ねぎとん120円、
 蓮根120円、ししとう100円、茄子100円、玉ネギ100円

 昭和39年(1964年)から続く地元の有名店だ。開店と同時に満席になる、というより
 も、開店前に並んでおかなければ、座れないこともあるくらいだ。予約ができれば良
 いのだか、予約は受け付けていないようで、そもそもそういう雰囲気の店ではない。
 その点では広島市中区にある「中ちゃん」レベル。人気の理由は、串揚げが問答無用
 に旨いことと、サービスが非常に素晴らしいこと。どちらも文句のつけようがない。
 串揚げという料理で、これほど感動することがあるとは思わなかった。これ以上に旨
 い串揚げ店が全国に何軒あるのか判らないが、少なくともこの店がトップクラスにあ
 ることだけは間違いないだろう。
 
 まず第一に種が良い。店主は元鮨職人と聞いたが、揚げる種はほとんどが魚介で、肉
 は少ししか置いていない。そもそも頼む客もほとんどいない。そして、その魚介がど
 れも普通の鮨店以上にピカピカと輝いているのだ。
 目の前の氷冷庫にずらりと並んだ種だけを見ると、ここは鮨店か?と思うくらいだ。
 そして、その魚介を揚げる腕が素晴らしく良い。ねりやをつけて揚げるのだが、素材
 に応じて衣の厚さを自在に変化させる。中には素揚げするものもあるし、パン粉をつ
 けない種も多い。極薄の衣をまとっているものもあるし、厚い衣で内側の肉汁を封じ
 込めたものもある。素材の組み合わせを楽しむ串揚げではないが、素晴らしい素材
 と、その味を引き出す技術に優れた串揚げで、ヘタな天ぷら店よりも、遥かに工夫が
 効いている。食べ方はソースと塩・レモン。ソースはなぜかタレと呼ばれているので
 注意すること。素材ごとに食べ方は決まっており、揚げ立てが置かれると同時に、親
 父さんか息子さんから提案がある。もちろん、それ以外の方法で食べても全然嫌な顔
 はされないが、やはり提案された食べ方が最も旨いので、まずは従ってみることを僕
 は勧めるな。
 
 唯一、醤油で供されるのが鰯。時期によって違うらしいが、僕が訪れたときは小鰯
 だった。小鰯の尻尾に近い部分を串に刺し、4~5匹まとめて揚げてある。
 それが2本で一人前だから、手間を考えたら申し訳ないくらい激安だ。これには厚め
 に衣をまぶし、揚げ立てに醤油をかけてくれる。ジューッ、ジブジブと音を立ててい
 る小鰯に齧り付くと、醤油の香ばしさと、小鰯の香りが一体となり、上手に焼かれた
 焼魚に醤油をたらして食べたときのような満足感があった。実は、メニューに書かて
 いるもの以外に隠れメニューがあるようで、穴子を一本揚げにしてもらったら、これ
 が最高に旨かった。これはレモンを絞り、塩を振りかけ、尻尾から食べるように提案
 される。最初、カリッとして、後からホコホコしてくる仕掛けだ。ちょうど季節だっ
 たので牡蠣をお願いすると、牡蠣の表面に薄っすらと衣がついており、その衣がカリ
 カリに香ばしく、噛み締めると口内を火傷するほど熱々だった。しかし、衣がふやけ
 ては旨さ半減どころか、大きく失われるので、一つ食べるごとにビールで口を冷し、
 バクバクと食べたのだった。この牡蠣も地元のものらしいが、しっかりと旨味があ
 り、県西部の牡蠣と比べても全く遜色ない。ちなみに牡蠣は、ソースを3杯皿に取
 り、そこへレモン汁を絞り入れて味を調節するように提案がある。確かにこれがぴっ
 たりなのだ。また、珍しいところでは鯨もあった。これは親父さんから「一つはその
 ままで、一つは衣で行こうか」といわれたので、もちろん喜んでお願いした。素揚げ
 された鯨肉は、これが鯨か?と、昔の学校給食の印象を完全に払拭する強烈な旨さが
 あった。繊維が密で、口腔でさらりと解れて、鯨の血液っぽい香りがふんわり立ち上
 がってくる。衣をつけたほうは、たぶん下拵えから違うのではないだろうか。やや漬
 け込んだ旨さがあり、こちらも納得の旨さ。
 
 何を食べても旨かったので、一つだけ高単価なあさりを頼んでみた。他はほとんどが
 200円代なのに、あさりだけが500円もするのだ。しかし、食べると500円以上の価値
 があることが良く判った。熱を加えていない生のあさりに、刷毛で小麦粉をまぶした
 くらいに薄く衣をつけ、カリッと揚げてある。ビールのアテに最高だし、ソースをつ
 けて食べても力負けせずに旨い。
 
 そして、価値観が揺らぐほど驚いたのは、貝柱だった。これも隠れメニューで、スラ
 イスして串に刺す前の貝柱を丸々一つ揚げるのだ。貝柱=ホタテガイと思っていたら、
 息子さんが「コレ?あぁバカ貝だよ。アオヤギとも言うよね」と教えてくれた。
 しかし、その貝柱は普通のホタテガイの貝柱よりも一回り以上大きいのだ。そんなこ
 とがあるのだろうか。あるとしたらどこか遠い国で獲れるに違いないと思い、確認
 すると「これは瀬戸内産だよ。この辺の海でこの時期だけに獲れるんだ」と教えてく
 れた。これは魚介ならどこにでもある地方名による混称だ、と思い、調べてみると
 バカガイではなく、タイラギのことだった。しかし、アオヤギ(小柱)の標準和名が
 バカガイというのは始めて知ったな。タイラギなら僕も何度か食べたが、それにして
 も大きい。僕が知るタイラギの優に2倍はある。僕は質の良くないホタテガイ特有の
 風味が好みではないのだが、タイラギのサッパリしてキレの良い味と風味は油で揚
 げると実に具合が良かった。中心に近い部分はまだレアで、噛み締めると甘い肉汁が
 たっぷりと染み出してくる。漁獲量が減っていると言われていたので、きっとこの
 貝柱は、近いうちに食べられなくなるんだろうな。これはレモンをたっぷりと絞って
 塩で食べた。
 
 他にもいろいろ食べたが、とにかく全て旨かったので書いていたらキリがない。
 油はどうやらラード100%のようだ。だからこそ、天ぷらとは違う野趣が感じられ、
 これほどのコクがあるのだろう。そして、ソースも普通のウスターソースではなく、
 少し醤油の風味が感じられ、この店の串揚げとの相性は素晴らしかった。
 そして、目の前に置かれた生キャベツは、なくなるとすぐに追加してくれる。
 しかも、このキャベツまで甘くて旨いのだ。仕入が良くなければ、この甘味は出ない。
 品質の低いキャベツはエグ味があるのだ。その上、皿が汚れると次々に代えてくれ、
 味が混ざらないように注意を怠らない。あまりに忙しいので、親父さんはときどき
 注文を忘れたりするようだが、息子さんがそこをしっかり締めているので、親父さん
 は揚げることに集中し、全体のオペレーションは息子さんが取り仕切っている。
 
 揚げ場を囲んで十数名で満席になる店で、客がいなければゆったりと座れるが、
 増えてくると椅子を詰めて隣の人と肩をすり合うようにして食べることになる。
 その度に、親父さんが「いやぁ、すいませんねぇ。ありがとうございます。
 いやぁ、どうも」と柔和に笑いながら頭をさげてくれる。僕はむしろ、この混雑まで
 もこの店の味だと思う。隣の人が食べた隠れメニューも丸見えなので
 「あれは何ですか?」と尋ねれば「一つ出しましょうか?」となり、客にとっても
 具合が良いのだ。そして、僕はあまりの旨さと快適さに、値段のことは考えるのを
 止めて、思う存分飲み食いした。しかし、会計は一人5,000円強。驚きの安さである。
 詳細に書いていると、思い出して再訪したくなるくらい快食な店だった。
 現在、僕が住む広島市からはちょっと遠いけれど、尾道だからこそ成り立つ店なの
 だろう。片道1時間20分かけても行きたいと思える、まさに尾道の宝だ。親父さんは
 少々お年だが、息子さんが跡を継がれるようなので、今後も僕たちを楽しませ
 てくれることは間違いない。(03.02)

 「店主が病気の為、しばらくの間休まさせていただきます」との情報提供あり。うー
 ん、暑い日が続いたからご主人が体調壊されたのか?それにしても残念。一日も早く
 回復されることを願うばかりだ。何はともあれ、貴重な情報を提供してくれた、や
 しょくさん、ありがとう!(03.08)

 尾道を訪れたついでに様子を見に行った。すると、店頭のはり紙に「長い間、ご迷惑
 をおかけしていましたが、9/12より営業させていただきます」と書いてあった。それ
 ほど深刻な事態ではなさそうで良かった。これからも身体を大切にしながら営業して
 もらいたいと願う。(03.08)