北の羊

 広島市西区三篠町1-12-18 TEL:082-238-0944 18:00-1:00 日休

 ジンギスカン900円、追加肉+600円、追加野菜+300円、ラムチョップ+500円、
 タンの塩焼き+450円、羊の水餃子450円、羊の串焼570円、
 激辛羊肉と青じそ炒め700円、トマトと羊肉の炒め物600円、
 葱と羊肉の炒め物600円、ねこまんま300円

 横川駅の裏手付近、旧道沿いにあるジンギスカンの店だ。最初に当然、ジン
 ギスカンを頼み、ビールをお願いしたが、提供までに少し時間がかかった。
 おそらく肉を切り分けていたのだろう。肉は、どんな肉でもそうだが、切り置い
 た肉よりも、切ってすぐの肉のほうが旨いに決まっている。急かして店の方針が
 変わることのないよう、これから訪れる人にも気を付けてほしい。

 しばらくすると、卓上に七輪が運ばれてきて、その上には鉄兜のような、いわゆ
 るジンギスカン鍋が載っていた。肉は野菜と別盛りで、野菜は櫛切りのタマネギ
 が少しと、サリナスモヤシが大量に、そしてニラが一摘みほどのせてあった。
 タマネギとモヤシはジンギスカンの定番だな。肉はモモ肉っぽい部位が3mmほどに
 スライスして、皿に並べてある。明らかに冷凍状態で切ったのではないことが判る
 切り口で、実際、食べても冷凍っぽさはなかった。肉はニュージーランドかオース
 トラリアと思うので、元々は冷凍してあったのだろうが、丁寧に解凍してあるの
 だろう。肉質はぷりぷりして香りが良く、マトンではなくラムが使われている。
 ラムなので言うまでもないが、臭みは一切ない。羊の脂独特の、甘い風味とさっく
 りした若い赤身の旨さがある。
 
 タレは2種類並べられ、ポン酢っぽいタレと、ジンギスカン風の濃い醤油ダレだった。
 僕は野菜はポン酢で、肉は醤油ダレで食べたほうが旨いと感じた。結構楽しく食べ
 進んだが、僕としては一人一人前で充分かな。腹よりも、肉を焼くときの油煙で腹
 が一杯になってしまったのだ。我ながらおっさんだなぁと思うけれど、真実なので
 仕方がない。牛や豚でも同じなので、羊に限ったことではないが、脂が溶けて油煙
 になったときの臭いは独特のものがある。それが苦手な人は厳しいかもしれない。
 
 店内を見渡すとメニュー外の料理がいくつかあり、タンと書いてあるのに気付いた。
 このタンって羊の?と訊くと「そうですよ」との答え。へぇ、羊のタンは初めてだ
 なと思い、追加注文した。出てきたのは、幅の狭い豚タンに近いような形状と色合
 いのタン。皮は残したままになっている。下味が付けてあるので、そのまましっか
 り焼いて食べるように言われた。じっくり焼き、初めて食べてみると、豚タンをさ
 らにさっぱりさせたような肉で、むしろ拍子抜けしてしまった。悪くないけれど、
 それほど手が伸びるほどではない。ま、初めて食べた素材だったので、そういう意
 味では得がたい経験をさせてもらった。癖はほとんどなし、珍しい素材なので、
 まずは一人前頼んでみることを勧めるな。
 
 続いて、羊の串焼き。これは女性の店主と、男性の補助スタッフのうち、男性のほ
 うが中国からの留学生のようなニュアンスが感じられたので、羊の串焼きを頼んで
 みたのだ。すると、ウイキョウを塗して塩焼きにした串が出てきて、
 おぉ、これこれ!と声をあげてしまった。広島市内では他に「聯聯」で出している
 が、他ではあまり見かけない。羊の香りとウイキョウの香りは、これ以上ないほど
 好相性なので、旨くない訳がない。その男性に出身はどこ?と訊くと
 「内蒙古自治区です」と応えたので、これはもう、水餃子も頼むしかないと思った。

 当然、中身は羊肉なのだ。タレに叩きニンニクを入れ、餃子の中にはニンニクを入
 れていない。肉汁が逃げるのを防ぐため、全て一口で食べたので、中身は正確に
 把握していないが、あまり細かく叩いていない羊肉と、手作りの厚い皮を、ぎゅっ
 ぎゅっと噛み締めると、小麦の甘い風味と、羊の肉汁が一体化する。ニンニクはタ
 レの風味付けなので、直接は食べなかったが、タレにエキスが染み出ているため、
 それで充分。羊とニンニクも好相性なのだ。これはもう、素晴らしく旨かった。
 
 ジンギスカンも旨いけれど、昔から羊を食べている人たちはさすがだなぁと心底納
 得できる。こういう味が旨い羊料理だという、体験の総量が豊富だし、先人の英知
 が文化として伝わっているということだろう。ジンギスカンは既に堪能したので、
 このまま中国の羊料理に突入したいなと思い、お勧めを訊くと羊と野菜の炒め物が
 いいとのこと。ではそれをとお願いしたのだが、これは先の料理に比べると、やや
 凡庸だった。辛く仕上げるのだが、粉唐辛子を使っているので粉っぽさを感じたし、
 羊肉ならではの味わいでもない。たぶん、何も言わずに提供したら、豚肉だと思う
 人がほとんどではないか。それくらい普通に旨い炒め物だった。
 
 サービスは、最初、店主のほうが緊張しているようだったが、少し話をしてみると
 徐々に馴染んできた。北海道のご出身なので、ジンギスカンの店を始めたと言われ
 たが、それまで飲食店の接客はやってこなかった方ではないか。だから、一見の客
 には少しだけど緊張してしまうのだろう。それ以外は店内も清潔だし、値段もほど
 ほど。羊肉って、旨いものを食べたことがない人は抵抗するのだが、普通に焼肉を
 食べに行くのと同じ感覚で行けば良いと思う。煙が結構激しく出るので、着て行く
 服は選ぶべき、というのが僕の唯一のアドバイスかな。それは焼肉店にも共通する
 ことではあるのだけれど。営業時間は、場所を考えると驚くほど遅くまでやってい
 るが、客がいないと早めに閉めることもあるらしい。 0時頃に訪れるなど、あまり
 に遅めの場合はあらかじめ電話確認したほうが良いだろう。首都圏では一息ついた
 感のあるジンギスカンブームだが、広島県内で個人が開いたジンギスカンor羊肉専
 門店はここが初めてではないか。長く頑張ってほしいなと思う。 (06.09)