安藤ちの経済再生プログラム

家計を引き締めることにした。というか、妻がそう宣言し、安藤はそれに同意し

 た。安藤は仕事や家事で忙しいので、家計の管理は時間に余裕のある妻にまかせ 
 ることにした。けっして、妻に財布の紐を握られた、わけではない(よね?)。 
 安藤ちは共稼ぎだが二人とも不安定な仕事をしている。安藤は超零細企業勤務で、

 安藤妻はアルバイト勤務だ。明日が見えない。万一のために準備しなくては。収
 入を増やすのは難しいが、支出を減らすのは、いや、なに、ずいぶん簡単な事だ。

 今までは、例えば、食費は安藤、光熱費は安藤妻というように、大まかな費目ご 
 とに、各自が支出していた。入口は二つだが出口も二つだった。これだと、おお 
 よそはつかめるが、何に幾ら使っているか、よくわからない。入口が二つあるの 
 はけっこうなことだが、出口が二つあるのはあまり好ましくない。無駄づかいを 
 しているつもりはなくても、知らず知らずのうちに出すぎるからだ。 
 安藤妻は、先ず、かなりハードルの高い年間貯蓄目標額を設定し、残りを月々の 
 生活費として予算化した。結果として、月々の支出は、「え?これだけ??」と 
 いうところまでしぼられ、安藤も安藤妻も月々自由にできる金は高校生並みの 
 「おこづかい」だけとなった。今まで、自分の収入は自分の裁量で自由にできた

 のに、二人とも耐え忍ぶ道を選んでしまった。そう、二人で耐え忍ぶのだ。

 食費も今までに比べると大幅な減額となった。食料品の買い出しは安藤が一手に 
 引き受けているので、食費は安藤が妻から支給を受ける。一月分をまとめて支給 
 されてもかまわないが、ペース配分のことを考慮して、十日分ずつ支給を受ける 
 ことにした。十日分なら一日幾らの配分がやりやすい。 
 一日幾ら十日で幾らのやりくりをはじめると想像以上に厳しい。食費は朝昼夕食 
 の全てを含むのだ。昼飯は街中で、「今日はあそこのランチにしようかな」なん 
 てのも、相当に食費を圧迫するので、つい家に帰って、あり合わせでたべてしま 
 う(家と職場、歩いて三分)。そうすると昼飯は原価二百円前後でおさまる。 
 だけど、この一日幾らのやりくりがなかなか楽しいことに気がついてしまった。 
 安易に妥協せず、安い店に自転車を飛ばす。肉や野菜を強引にホンの少し余らせ 
 て冷凍にまわしたら、弁当の隙間を埋めるのや、ちょっとした一品を作るのに役 
 立つ。スカスカだった冷凍庫がいつの間にか満杯に。普通の主婦なら誰でもやっ 
 ていることを今更ながら実践する。無駄遣いをしていた気はないが、さほど倹約 
 もしていなかったことを反省する。 
 十日間の終盤の数日はなかなかスリリングである。スリリングな数日が月に三度 
 も巡ってくる。無い金の中から、安藤妻と子を満足させるうまいものを食卓にの 
 せなくてはならない。ここが腕の見せ所じゃありませんか。あぁオモシロイ。 
 安藤が預かる食費は、他のお金と混じらないよう、専用の透明ポーチに入れるこ 
 とにした。費目別袋方式とでもいおうか。昼下がりの八丁堀天満屋の地下で、支 
 払いの際に透明ポーチからお金を出している中年男性がいたら、それは、もしか

 したら、安藤かも、しれない。


 安藤トロワー@会社勤めをしながら家事もこなす兼業主夫(ああ忙しい)