広島市街地ピンクビラ攻防戦

安藤ちのすぐそばは、広島市でも有数のラブホテル街である。あまりよい住環境
 とは言えないか?朝はラブホテルから出勤するカップルを時々みかける。スーツ
 などの格好ならラブホテル街をちょっと離れれば、朝帰りのカップルとはわから
 ないだろう。ところでラブホテルを使うのは、愛しあう二人だけとは限らない。
 ビジネスにもよく利用されるらしい。ビジネスといっても、出張で泊まるとか、
 商談の場にするとかいうものではない。いわゆる買売春という(あるいはそれに
 近い)ビジネスである。

 そういうビジネスだと、電話帳には載せてくれないし、本通りや駅前でチラシを
 配るわけにもいかない。電話ボックスに張り付けるピンクビラが売り手と買い手
 の唯一に近い接点となる。ラブホテル街に近い安藤ち近辺の電話ボックスは、無
 料の広告塔として常時ピンクビラで満艦飾である。「李下の冠」ではないが、安
 藤のような中年男が満艦飾の電話ボックスに入るというのは、たとえ単なる用事
 で電話をかけるだけのことにしても、ちょっと気後れする。

 それでなくても安藤は物事を子細に観察する癖がついているから、どうしても、
 そういうところに入ると、電話のついでに、ついつい、ビラの一枚一枚を丹念に
 見ちゃうじゃないですか。いえ、やはり、業者の皆さんも死に物狂いだから、お
 客様との接点である、名刺大のピンクビラに様々な工夫を凝らしているわけです
 よ。視覚に訴えるものあり、素晴らしいコピー(?)で惹起するものあり。けっ
 こう見ていて飽きない。あ、飽きないほど見ているからまずいのか。別に利用し
 ようというわけではないけれど、そんな安藤の様子を知り合いとかが偶然見た
 ら、やはり、どれにしようか迷っているんだなと誤解されそうじゃないですか。

 携帯電話の普及で電話ボックスの数は少なくなったが、その手の業者さんの数が
 減ったわけではない(と思う)。要するに無料の広告塔の数が少なくなったとい
 うことで、業者間のビラ貼りは以前にも増して熾烈になっている模様である。以
 前は夜討ち朝駆けというような感じで、人が寝静まった後、人が起き出す前を
 狙って、ピンクビラ貼り作業が行われていたのに、近ごろは日中でも平気であ
 る。知り合いの女の子なんか、平日の昼間、電話ボックスで話していると、外か
 らピンクビラ貼りのこわいお兄さんにドンドンドンと戸を叩かれ、「早よう
 出ぇ」とすごまれたことが一度ならずあるそうで、なんだか物騒なのである。

 さて、満艦飾のピンクビラ、近隣の住民や会社の方々が結構こまめに剥がすのだ
 が、どうしても、両面テープが残っちゃうのである。いくら剥がしても、両面
 テープだけが残っていき、両面テープの上に両面テープで、剥がせば剥がすほど
 電話ボックスは汚くなるという現象がおきてくる。では、電話ボックスのガラス
 は両面テープの残渣で際限なく汚れていくかというとそうでもない。実は、電話
 ボックスの徹底的な清掃をする人がいて、定期的に巡回して、プロの機材を使い、
 ピカピカの電話ボックスを再生するという作業をするのである。服装や車から推
 察すると、NTTの正規の社員ではなく、下請けの清掃業者のようだ。幾重にも
 こびりついたガラス一面の両面テープを剥がして磨き上げるという根気のいる作
 業を延々と一日中そして毎日毎日続けるわけである。

 先日もその作業をしているところに通りかかった。液状のクリーナーをかけて、
 ヘラのような道具で丹念にガラス面の両面テープをこそげ落とし、更にピカピカ
 に磨き上げる。大変な作業である。と、そこに、ビンクビラ貼りの二人組(周囲
 の監視のためか必ずといってよいほど二人組なのである)が登場。その電話ボッ
 クスは、清掃作業中であるので、諦めて次のボックスに行くのかと思いきや。
 んま!なんと、その清掃作業のおじさんとピンクビラ貼りの二人組は和やかに談
 笑しはじめるのである。おじさんは清掃作業を続けながら電話ボックスを汚す憎
 きビラ貼りと世間話を延々と続ける。ん?これはいったいどういうこと?不審に
 思った安藤は、彼らの様子を引き続き観察する。

 無事、清掃が終わり、ピカピカの外観を取り戻した電話ボックス。

 な・な・なんと・・・清掃作業のおじさんは、ピンクビラ貼りの二人組にきれい
 に磨き上げた電話ボックスを譲り渡し、次のボックスへ・・・ピンクビラ貼りの
 二人組は待ってましたとばかりにピカピカの電話ボックスに怪しげなピンクビラ
 を早速ベタベタと貼りまくる・・・・・・

 なんという構図?

 なんのことはない。清掃作業のおじさんの飯のタネはピンクビラで汚れた電話
 ボックスなのである。ピンクビラで汚れた電話ボックスがないとおまんま食い
 上げなのである。おじさんとピンクビラ貼りは敵対関係にあるのではなく、実に
 好ましい共存共栄関係なのだ。

 電話ボックス清掃は今日も続く。ピンクビラ貼りも今日も延々と続く。


 安藤トロワー@会社勤めをしながら家事もこなす兼業主夫