迷ってみましょう広島27

   このコーナーは、積極的に道に迷うコーナーです。

  庄原へ行ってきました。
 広島駅からJRに乗って2時間50分。電車に乗り込んだ時には確かに春の陽
 気だったのに、降り立ったホームには北風が舞っていました。

  改札を出て、駅前にある古めかしく雑多な雰囲気の商店を眺めつつ、最初の
 交差点に出てみました。
 右を向くと、まっすぐに伸びた道。やや上り坂。人影はありません。
 左を向いても、まっすぐに伸びた道。風が吹き抜けていきます。
 シャッターを閉じた建物が並ぶ道。なんだか寂しい場所だなぁ。

  今度庄原に行ってみようと思うんですよ、と知り合いに話した時。
 「ほう、庄原に何かあるん?」何かあるかどうか見に行ってみるんですよ。庄
 原について何か知っとられませんかね。「さぁのぅ、いつも通過するだけじゃ
 けぇのぅ。」
  別の人にも聞いてみました。「上野公園とかあるんじゃろ」そう、上野公園
 があるのは知ってるんです。それ以外に何か無いですか。「備北丘陵公園もあ
 るよの」それも知ってます。そんなのじゃなくて、神社とか、仏閣とか、町並
 みがすごいとか、僕が知りたいのはそんなのについての情報。
 「さぁのぅ、どうかのう」

  駅から一本目の寂れ具合だけを見て、めげているわけにはいきません。
 街探検は始まったばかりなのです。さぁ、気を取り直して次の通りを目指しま
 しょう。
  二つ目の通りに出ました。ゆっくりと右を見て、またゆっくりと左も見て。
 やはり人影は見えません。商店街のにぎわいや、歴史の重みが刻まれたような
 格子戸も見えず。車だけが通り過ぎていきます。
 静かですね。静かすぎる。この街は一体・・・。

  広島県に住んでいて、「庄原」という地名を聞いたことがない人はおります
 まい。しかし、僕の周りの人は誰に聞いても、街の様子について詳しく知って
 いないのです。

  中国地方の地図を広げてみると、この街が福山や三原と出雲を結ぶ交易ルー

 ト上にあるのは一目瞭然です。また、中国山地の重要交易拠点だった三次まで
 も1日で辿り着ける距離にあり、宿場町としての機能も持っていたであろう事
 は容易に推測できます。ならば、風情ある古い家並みが残されていたり、豪商
 の屋敷や酒蔵、巨大な神社・仏閣が今に至るまで受け継がれていても不思議は
 ない、そう思っていたのです。

  二本目の通りの交差点で、どうにもこれは参ったなぁと若干諦め気味に辺り
 を見回していましたら、左手の少し小高くなっている木立の間から大きな瓦屋
 根が覗いているのを見つけました。あぁ、あったあった、あれは神社かお寺に
 違いない。あーよかった。見つけたよ。やっぱ小高い所には神社かお寺よね。
  少し坂を上ると、山門が見えてきました。神社じゃなくてお寺でしたね。宝
 蔵寺というお寺です。境内に入ると、思っていた以上に大きなお寺だというこ
 とが分かりました。林の間に瓦屋根がいくつも見えています。枯葉が積もった
 参道の石畳を踏みつつ社を巡ると、どの社もあまり手入れされていないのか、
 ちょっと崩れかかっていたり、梁が虫に食われていたりしていました。なにや
 らお寺もこの街の状態と似てるなぁ、人もおらんし、と思いながらどんどん奥
 へ上っていきますと、お墓参りの家族とふいに出くわして、あらっ、案外人の
 来るお寺なのねと思ってみたり。

  さらに奥へ上へとのぼっていくと、今度はまたえらく大きな屋根が見えてき
 ました。ありゃ?この屋根は神社じゃないの?近づいてみると確かに神社。さ
 っきまで寺じゃったのにここから神社?正面に廻ってみますと「丑虎神社」と
 ありました。ほほう、丑虎ですか。北東を守る神社ですかね。おっ、拝殿前の
 賽銭箱までの石畳が六角形になってますね。珍しいですね。なんか意味がある
 んでしょうけど解説板とか無いかいな。無いなぁ。あったら面白いのになぁ。

  丑虎神社から上野池の湖面が見えていたので、そっちの方へ下りていった頃
 から妙に寒くなってきまして、これヤバいんじゃないのと思っていたら案の定、
 雪が降ってきましたよ〜!ひゃ〜寒いっ。しかも横風に乗って!なんだよ、も
 う春じゃなかったのかよぅ、勘弁してくれよぅ。

  吹雪く日に湖畔を歩くほど情けないことはないですね。方向転換して町の中
 心部方向へ。

  町の中心部、はっきり言って寂れてますね。しかも、一時期賑わっていた感
 じが残っているだけに、余計にそう感じてしまいます。
 町割は古いのですが、建物はここ2,30年以内に建てられたようなのが多く
 て、レトロというほど古くなく、かといって築百年を越えるような古い建物は
 無くなっていて。残念ながら散策するには見所の少ない町並みです。
  中心部から少しはずれたところに、大きなショッピングセンターと田園文化
 センターってのがありました。中に入ってみましたら、一体この町のどこに、
 と思うほど人でいっぱいでした。今はこの辺りが町の中心になってしまってい
 るようですね。

  この田園文化センター、ホールや図書館、歴史民俗資料館などを備えている
 んですが、僕が一番面白かったのが、庄原出身の作家、倉田百三の資料を集め
 た「倉田百三文学館」でした。
  知ってます?倉田百三。「出家とその弟子」とかの作品があるんですが。実
 はね、僕もあんまり知らんかったんですよ。名前ぐらいは知ってましたが。で、
 記念館入る前は「何かあるけぇ入ってみるか」程度の気持ちだったんですけど、
 一通り見て出る頃には「よーし倉田百三の本買ってみるか」ってな具合になっ
 てまして。感化され易いんですよ。

  さっそくセンターを飛び出して本屋を探しますと、近くにビデオレンタルも
 やってるブックセンターがありまして。意気揚々と入ってみましたら、売り場
 の多くは雑誌とマンガ。いやいやそれでも地元出身の作家でしょ、売ってるで
 しょ、えーと倉田倉田、く、く、北方健三があるから、えーとその次あたりに
 ・・・って、無いじゃーん倉田!ちょっともー、勘弁してよ〜。たとえ売れな
 くても一冊ぐらい置いとけよ地元出身なんじゃけぇよぅ、もうっ。知らんっ。

  頭がカッカ来てる時ほど胸の内は寂しいものです。今の僕の心の支えはショ
 ッピングセンターの土産物コーナーで買った竹屋饅頭だけです。
  どうせ外から来た資本には郷土愛なんて無いのさ、そんな時代なのさ、など
 とつぶやきながらトボトボと駅へ向かって歩いておりましたら、昔の商店街へ
 出ました。今日何度か通った道です。商店街かぁ。商店街には本屋が付き物だ
 よな。本屋あるかなぁ。潰れて無くなってるかもなぁ。ダメ元で探してみるか。

  古びた外観。ガラスの引き戸。薄暗い照明。そして見える文庫本の棚。おお
 ーっ、有るじゃん、まだ生きとるじゃん。やったーこれこれ、これぞ本屋、こ
 ういう本屋なら絶対に有るはず!
  ガラガラーと戸を開けると古い本屋独特の埃っぽい匂い。扉横の狭いレジに
 は丸眼鏡の爺さんが、まるで店のパーツのようにきっちりはまり込んでます。
 客は僕一人。絶対に有る、その確信と共に入り口すぐの小説の棚に飛びつき素
 早く目を走らせます。倉田倉田、く、く、く、あっ!あったーー倉田百三「出
 家とその弟子」。やったー!いや〜さすがだ!これぞ矜持というのもでしょう。
 やはりそうでなくては。うむうむ。ちょっと目頭熱いかも。
  喜び勇んでレジに持っていきますと、眼鏡爺さんさして驚きもせず、淡々と
 紙カバーを巻き輪ゴムをぱちんと掛け、渡してくれました。「倉田百三ですね」
 とかなんとか言ってくれるかとも思ったんですが。なかなか手強そうな爺さん
 でした。

  帰りの電車の中で少し読み始めてみましたら、この本面白いですよ。ちょう
 ど今僕が求めているような内容でした。読み進めるのが大変楽しみです。

                             by 自転車