迷ってみましょう広島21 後半

   このコーナーは、積極的に道に迷うコーナーです。

 今回の話は前回からの続きです。

  十分感動に浸った後、対潮楼を後にしました。
 福善寺からの路地は、石畳になっています。見ると、石畳のままどこまでも路
 地が続いているようです。道ばたの家々はどうも普通の民家なのですが、道が
 石畳になっているというそれだけで、いかにも観光地という感じになるのが不
 思議です。

  さて、その路地を右に折れ、左に折れ、適当に歩いておりますと、太くてま
 っすぐな道に出ました。左右の家々の低い屋根、格子に出格子、錆びたポンプ
 と植木鉢。これは昔のメインストリートですね。道幅から見ても、往時にはか
 なりのにぎわいがあったと想像できます。道の両側に大八車が路駐?して、荷
 下ろしをしていても、まだ余裕のある広さ。

  かつて多くの人が下駄、草履、わらじ、あるいは裸足でこの道を往き来して
 いたのでしょうね。荷夫と商人の話し声、魚を焼く煙と香り、店先には日よけ
 の暖簾、ちょんまげフリチンで走り回る男の子、縁側で一服するじーさん。そ
 んな、今は失われてしまった風景に思いを馳せながら、道を歩きます。

  ここ鞆の街には、うれしいことに歴史民俗資料館があります。
 この小さな街のためだけにわざわざ1軒資料館がある、という幸せ。是非とも
 行ってみましょう。入館料は大人一人150円です。

  あまり大きな資料館ではないのですが、それでも展示品を一つ一つじっくり
 見ながら、昔の人々がこの街でどんな暮らしをしていたのか思い浮かべながら
 順路を巡っていると、いつのまにか小1時間ほど過ぎていました。

  展示品の中の、木でできた薄い板に目が止まりました。
 幅が3センチぐらい、長さは12,3センチぐらいの長いものと、8センチぐ
 らいの短いものの2種類。厚さはどちらも3ミリぐらいかな。薄いですね。表
 に焼印が押してあります。よほど使い込まれたのか、角が丸みを帯びていて、
 いかにも手になじみそうです。材は杉でしょうか。丈夫そうです。

  以下のような解説が付いていました。

  「中仕の荷役札 
    鞆港へ入港した船への荷物の積みおろし、蔵入は「仲仕」と
   よばれる港湾労働者の仕事であった。仲仕が荷物を運ぶごとに、
   この木札を渡し、作業終了後に、この札と現金を引き替える。
   大小の札があり、小札は小物時に使い、半荷の計算になる。」

  面白いですね。チケット制だったんですね。
 今までにあまり見たことのない様なものが展示してあるなと思って近づいてみ
 たのですが、解説を読んでなるほど、と思いました。こういう類の、普段の生
 活に密着したものって、あまり残らないようで、見かけることも少ないですよ。
 食券制のラーメン屋のプラスチックのプレートを、いずれ資料になるからって
 後生大事に取っておく人なんて、居ないでしょ。

  でも、その当時の人の生活の様子を知るには、そういう普段使いの何気ない
 道具が、一番分かり易いんですよね。

  午前中。今日もまたたくさんの北前船が港にやってくる。
   「おい、留さんよ、こいつをうちまで運んどくれい」
   「へい、○○屋さんですね。わかりやした。よっこらしょっと」
  人や物が行き交う通りを、ふんどし、刺し子、わらじ姿で、荷物を背中に負
  って歩く。引き締まり、黒く日焼けした腕や足。腰には汗を拭く手ぬぐい。
   「こんちは〜、まいど〜。運んできたよ〜」
   「はいはい、そいじゃそこの脇に置いといておくれ。」
  ほい、よっこいしょっと。
   「はい、ご苦労さん。そいじゃこれ。」
  木札をもらう。汗をぬぐう。

 1日かけて集められる木札は何枚か。
 夕方、木札に押された焼印の店に、その木札を持って行く。 
  「はい、それじゃこれが今日の分ね。」

  そうやってもらったお金を手に、ある者は家族の待つ家へ、またある者は
 居酒屋や女郎街へと消えていく。

  木札が薄いのは、たくさん集めてもかさばらないようにするためでしょう。
 お金に替わる大事な物だし、無くさないように巾着に入れて腰から下げてたり
 してたのかもしれないですね。残念ながらそこまで分かる資料が展示されてい
 なかったので、実際どんな風だったのかは想像するしかないんですけど。

  そう、資料がないと言えば、女郎街に関する資料や記述もほとんど見られま
 せんでした。実際に街を歩いてもそういう雰囲気の場所も無いし。
 無い訳ぁないんですよ、これだけ男性の仕事のある街だったんですから。
 壊されちゃったのかな。まぁ、かつて女郎屋だった建物をそのまま使う人なん
 ていないでしょうから、潰れる端から違う建物になっていったのかも知れませ
 んね。

  資料館があるって、本当にいいですね。そして、資料館の古い写真に写って
 いる建物が、今もそのまま建っているのも、また、いいですね。

  いま鞆の街は橋を架けるかどうかでもめていますが、その場所に暮らしてい
 ない一部外者として言わせてもらえば、橋は造ってもらいたくないと思いまし
 た。今ある景色を可能な限り残した上で、解決方法を探ってもらいたいです。
 海と、港と、瓦の屋根の景色こそが、後世に残すべき大切な宝物だと僕は思い
 ます。

 追記:記事で紹介した木札は鞆の浦歴史民俗資料館の所蔵品ですが、企画展
    が開催されていると見ることが出来ないこともあるようです。
    どうしても見たい!という方は、受付で販売している
    「北前船とその時代 −鞆の津のにぎわい−」(1000円)の
    56ページに写真が載っていますので、それを見てください。
    詳しくは資料館に問い合わせてください。

  福山市鞆の浦歴史民俗資料館
    福山市鞆町後地536-1 Tel(084)982-1121
     
    公式HPは見つけられなかったんですが、検索をかければ
    資料館について紹介したページがたくさん見つかりますので
    今どんな展示をやっているかというのは、そちらで確認されても
    よいでしょう。
                             by 自転車