迷ってみましょう広島38

   このコーナーは、積極的に道に迷うコーナーです。

 迷ってみましょう広島38

 熊野に行ってきました。

  子どもの頃、テレビで取り上げられる熊野古道を見て、「広島県にはすごい
 場所があるんじゃのぅ〜」と思っていました。違うんですよね。
 今回はバスで出かけます。広島バスセンターからバスに揺られていきましょう。
 熊野方面へ行くバスに乗るのは初めてなので、切符売り場で時刻表と路線表を
 何度も見直します。路線図で見るとなんだかとても遠いように見えますが、熊
 野から毎日広島市内まで通ってきている人だってたくさんおられるんですよね。

  切符を買ってバスに乗り込むと、後はバスにお任せ。のんびり景色を眺めま
 す。広島市内を抜け、海田大橋を渡り、矢野の団地を走り抜け、どんどん山に
 登っていきます。やがて長いトンネルを抜けると、そこが熊野です。さ〜もう
 すぐ目当てのバス停に到着だな、と思っていたら「次は〜終点、熊野営業所で
 す」とのアナウンス。あらっ、わしが降りる予定だったバス停、まだなんです
 けど。もう終点ってどういうこと?

  終点といわれれば降りざるを得ないもの。とりあえず降りてから、バス待合
 い室内にある路線図を見てみました。すると、僕の目的地であった「熊野町役
 場前」で降りるためには、「熊野営業所行き」のバスではなく、「熊野車庫前
 行き」に乗らねばならなかったという事実が判明。うわー、紛らわしい!間違
 えたじゃんか!ちゃんと確かめなかった自分のミスは棚に置いて、「なんて紛
 らわしい」と一人怒りの炎を燃やすも後の祭り。どうしようもないものはどう
 しようもないのです。

  気を取り直して路線図をもう一度見てみますと、ここから熊野の中心部まで
 は、歩いたところでたいした距離でもなさそうです。どうせ歩きに来たんです
 から、気分を変えて、歩いていきましょう。出発!

  車とトラックの行き交う大通りを歩いておりますと「筆の里工房こっち」の
 看板が見えました。距離は1キロ強。そんなに遠くないから行ってみよう、と
 思ったのが間違いでした。長い上り坂だったんですよ。
  団地の中を抜け、竹藪の間を通り、アップダウンを繰り返し、いい加減汗か
 いてきたなと思った頃、筆の里工房到着。ひゃ〜暑かった。真夏にはこの距離
 は歩けませんな。
  建物の横にある大きなため池の縁は、遠くの景色を眺めるのにとても気持ち
 の良い場所でした。気分爽快で、歩いた疲れも吹き飛びます。

  休憩もかねてぼんやり景色を眺めていたら、そこから少し下ったところに大
 木の一群が見えました。これはきっと神社か寺ですね。行ってみましょう。

  ため池から細い農道を下りますと中学校があり、その中学校のすぐ横に、思
 った通り大きな神社がありました。神社へと続く参道の横に、石造りの大きな
 「筆塚」があります。さすが熊野、日本一の筆の産地ですね。参道のひんやり
 した石段をあがると、「熊野本宮社」がありました。なかなか大きな神社だな
 ぁと見ておりましたら、ふと、同じ境内の右手にもう一つ大きな建物があるの
 に気づきました。おりょ?なんだこれ?とそちらに行ってみますと、そこには
 「榊山神社」という別の神社があるではないですか。こちらもずいぶん立派な
 神社です。こんな大きな神社が隣同士で並んでいるなんて。

  熊野本宮社にある説明板を読んでみたところ、境内にある他の小神社も含め、
 遠くにある神社から勧進したり、元々は別の場所にあった神社を集めたりした
 結果、現在のような状態になったそうです。おもしろいですね。

  特にこれは珍しいな、と思ったのは榊山神社の神殿に施された多くの彫刻で
 す。大きな梁の飛び出た部分だけでなく、細かいところにかわいらしい動物の
 彫刻がたくさんしてあります。僕は回廊を飾る馬と兎の出来具合が大変気に入
 りました。破風には鬼の姿も見えたりして、見所の多い建物です。もしこの神
 社に行かれることがあったら、どこに何がいるのか探してみてくださいな。楽
 しいですよ。

  さて、石段を下りて町へ出てみましょう。町の中の道は、細さといい、曲が
 り具合といい、実に人間の生物らしさが表れた、楽しい道路網です。曲がり、
 分かれ、交わるこの複雑さ。実に良いですね。あっという間に迷えます。整然
 とした町割りに慣れ回転の悪くなった脳みそに、びりびりと電気が走るのを感
 じます。やはり町というのはこうでなくては。

  旧道とおぼしき太い道に出ますと、どこか昭和の雰囲気を漂わせる商店が並
 びます。例えばほら、あの大きな青果屋をごらんなさい。色とりどりに並べら
 れた野菜や果物に、裸電球のオレンジ色。近所の人たちが次々とやってきて、
 挨拶や会話をしつつ品定めに忙しい様子。

  それからこのお総菜屋さん。おばちゃんがお店の中で忙しそうにくるくる働
 いておられるのが見えます。ちょうどお昼だし、ここで食べるものを買ってそ
 この公園で昼ご飯としましょうか。すいませ〜ん、このおこわください。「は
 いはい。この天ぷら(詰め合わせ)もどう?105円。」あ、おいしそう。そ
 れください。それから、このフキの煮付けもください。「これおいしいよ〜。
 それと、このおからも美味しいんよ、どう?105円。」うわ、このおからボ
 リュームありますね。これも105円か。安い。でもちょっと食べきれそうに
 ないから、おからはいいです。

  会話しながらの買い物というのは楽しいですのぅ。

  公園のベンチでのんびり食事を済ませたら、町をもう一回りして帰りましょ
 うか。と、特に何も考えないまま総菜屋さんの横から大通りを外れてみました。
 すると突然に、予想だにしていなかった物が目に入りました。茅葺き屋根です。
 茅葺き屋根ですよ、あれはどう見ても。びっくりして近づきよく見ると、どう
 やら大きなお宅の庭にある茶室の屋根のようです。そうよね、いくらなんでも
 ね。現役の家屋なわけ無いよね。あ〜びっくりした。
  ところがもっとびっくりしたのはその後でした。同じ道を、さらに歩いて行
 きりましたら、道の先にまた茅葺き屋根が見えるんですよ。今度のはさっき見
 たのよりもずっと大きい。まさか家屋?いや、だってこんなに都市に近い場所
 で、県北の方に行ったって最近じゃそんなにたくさん残ってないのに……。

  はたして、近づいてみますと、今度は本物の家屋でした。しかも現在も人が
 住んでおられるようで、庭先に洗濯物が揺れています。

  ええー、すごいなぁと見ていると、なんとなんと、すぐ向こうにもう1軒、
 茅葺き屋根のお宅が見えてるじゃないですか。うわー、なんだここ!本当に?
 本当にここに住んでるの?すごい!なんてすごい!
  そのつもりで見てみますと、その近所に茅葺き屋根のお宅の多いこと!もっ
 とも、茅の損傷を防ぐために屋根全体をトタンなどで覆っているおうちが多い
 のですが、茅丸出しのままのお宅も何軒か健在でした。

  広島市近郊で、こんなにたくさん茅葺き屋根のおうちがある場所は他には無
 いんじゃないでしょうか。これはすごい。

  車やトラックが忙しく行き交い、大型店やチェーン店がお客獲得にしのぎを
 削る大通りからわずか数十メートルの場所に、ゆっくりと角度を変えゆく日の
 光に身をゆだねた茅葺き屋根の家々が、互いに目で会話するかのように静かに
 佇んでいる様子を思うとき、文明と文化の関係の複雑さについて考えてしまう
 のは僕だけではありますまい。

  それにしても、知らない事って多いものですねぇ。前にも書きましたか。今
 回も、つくずくそう思いました。

  あの大通りを車で通過するだけの人たちも、きっと知らないんだろうなぁ。

                             by 自転車