異国の海〜私に道を聞かないで〜

日本には世界遺産が11あり、そのうち二つが広島にある。この二つの世界遺産
 は、全然別個のものながら、なんと半日のうちに両方を見ることができるという
 至近距離にある。地球規模で見ても、広島はかなり世界遺産密度の高い地域では
 ないのかしらん。

 当然ながら、海外からの観光客も多く、街のあちこちで地図を片手に思案顔の外
 国人を見かけることになる。このような時、安藤はできるだけ近づかず、極力目
 を合わさないようにする。理由は簡単、英語ができないからである。もしフラン
 スの片田舎で道を尋ねたとしても、フランス語でしかかえってこないだろう。安
 藤も断固日本語で応じたらよいのだが、それにしても面倒だ。

 先日、横川に所用があり、JR広島駅から電車に乗ろうとして、駅前大橋から地
 下に入ったところ、地図を広げた白人男性がいきなり安藤に近づいてくる。案の
 定、「英語はできるか」と問う。なんで、安藤めがけてくるんだ?ちゃんと視線
 はそらしたのに!!と思ったら、どうも安藤の後ろにいた妻に反応したようだ。
 道を聞きやすいタイプの人間というのはいるらしい。安藤の妻はそれに属するよ
 うで、よく道を聞かれる。いつもなぜかしら外国人。白人男性は平和祈念公園に
 行きたいとのこと。路面電車をすすめる妻。路面電車の乗り場を教えると・・・

 「そこで何番線に乗ればよい?」

 宮島口行、己斐行、江波行ならばよいけれど、比治山経由宇品行、紙屋町経由宇
 品行はダメだよ、とこたえればよい。だけど、どれが何番線かというのは盲点で
 あったな。ちょうど安藤たちは、路面電車乗り場の真下あたりにいたので、乗り
 場まで案内しようということになる。

 地下からエスカレータで地上へ。電車乗り場には先発の電車が待機している。

 「あれに乗ってください、原爆ドーム前で降りてね」

 初老のひげを蓄えた白人男性(はなぜか哲学的風貌に見える)を電車に送り込む。
 安藤の妻は、「わたしが日本に来て一番きれいな英語をしゃべる人、それがあな
 ただ」とおべんちゃらを言われたそうな。

 横川での所用をすませた安藤たち、帰宅のために、広島駅から稲荷町まで路面電
 車を使うことにする。さて、電車に乗ろう。安藤たちは、稲荷町だから、比治山
 下経由宇品行き以外ならなんでもいいぞ。

 「ん?一番線は紙屋町経由宇品行き?ひぇ〜彼を宇品行きに乗せちゃったよぉ〜」

 そう、安藤の勘違いで、哲学的風貌の初老の白人男性を原爆ドームのちょっと手
 前で左に曲がる電車に乗せてしまったのだ。てっきり一番線は宮島口行だと思っ
 ていた。彼はどこまで行ったのだろう。紙屋町で降りて徒歩で平和祈念公園にた
 どり着いただろうか。それとも終着の宇品港まで行ったのだろうか。

 いや、なに、異国で思いがけず海を見るのもいいものさ。それが紺碧のティレニ
 ア海じゃなくて、ちょっと悪臭の漂う宇品の港だったとしても・・・ね。


 安藤トロワー@会社勤めをしながら家事もこなす兼業主夫(ああ忙しい)