迷ってみましょう広島53

 「あたらしいみかんのむきかた」という本をご存知でしょうか。ある日、む
いた皮がたまたまサソリに見えたのをきっかけに、いろいろな生き物の形にな
るようにみかんのむき方を研究した著者による、まさに「あたらしいみかんの
むきかた」の本です。僕もつい先日入手しました。
 なんだくだらない、と思われる向きもあるでしょう。でも、文化というのは、
そういうどうでもいいような事からスタートして、そこから枝葉を伸ばしてい
くものではないかと思うのです。今回訪れた福山市神辺町でも、そう思ったん
です。

 福山駅から福塩線の電車に乗って13分。神辺は僕が思っていたよりも福山
に近い場所でした。駅の案内板を見て、駅の東側へ出ます。道は広いのに人通
りが少ないなぁ。まずは目的地の一つ、神辺本陣へ。大体こっちの方向と分か
ったら、案内表示を適度に無視して信じた方向へ歩きます。

 少し歩くと、一見してそれと分かる古い街道がありました。木造2階建て、
格子、なまこ壁の建物が見えてます。あら、こっちにもなまこ壁。角を曲がっ
て細い通りに入ったら、ここにもなまこ壁。おや、えらくなまこ壁の建物が多
い町ですね。おもしろいなぁ。なんでこんなになまこ壁が多いのか。流行って
たんでしょうか。
 でも、なまこ壁にしようと思ったらそれだけコストもかかるはずだし、って
ことはお金持ちが多かったって事かな。と思ってきょろきょろしながら歩いて
いると、今度は倉の壁になまこ壁、しかも、この1階と2階の間のこの部分を
なまこ仕様にする必要ないでしょ、これ完全に飾りですよね、まぁ旦那こんな
ところに金かけちゃって、というようなのがあっちにもこっちにも目につくじ
ゃありませんか。これはなんだかすごいぞ。

 と、突然に広い通りに出ました。東西にまっすぐの広い道。あそこにえらい
大きなお屋敷があるじゃない、これはすごいすごいと近づいてみたら、それが
目指していた神辺本陣でした。本陣は見学無料、しかも観光ボランティアさん
の解説付きというありがたいものでした。本陣は、かつて使われていた建物全
体がほぼそのまま現存しているそうで、大変に規模の大きなものでした。ただ、
老朽化は否めず、地方自治体の皆様にはぜひとも維持改修に予算を投じてほし
いところであります。

 ボランティアさんに挨拶して、次なる目標、廉塾へ。れんじゅくと読みます。
菅茶山という人が開いた塾です。かんちゃざんです。丁寧に行き方を教わった
ので、今度はその通りに歩いてみました。大通りが左へ折れ、しばらく先で右
に折れしています。遠見遮断ですね。それにしても、本当に道がまっすぐです。
こんなにまっすぐじゃ、いくら遠見遮断を導入したからって防備上どうなんか
いのと思いますが、本陣もあるくらいだし、戦乱の無くなった江戸時代に入っ
てから、往来がしやすいよう徐々にまっすぐにされていったのかもしれません
ね。そこらへんの詳しい事情が知りたくなります。

 その街道をしばらく行くと、前庭が畑になっている、いかにもな建物がみえ
ました。廉塾です。畑と学舎ズバリ晴耕雨読です。あっとここでもボランティ
アさんの解説有り、かつ入場無料です。そして老朽化もありの予算希望です。

 ボランティアさんの話によると、この廉塾は西国街道沿いに建てられていた
ので、諸国を漫遊する旅の人々が立寄っては、面白い話をしていったのだそう
です。なるほど、菅茶山さん頭良いです。どんなしょうもない様な情報でも、
たくさん集めて全体を見渡せば、そこから世相が見えてくるはずですからね。
菅茶山さんえらい。みかんのむきかたも教えてあげたいところです。

 廉塾を出てからも、またいつものようにぐるぐる歩き回りまして。町に張り
巡らされた水路をのぞき込み、なまこ壁の漆喰に細かい装飾があるのを見たり、
道のまっすぐさにほれぼれしたり、格子や窓に職人さんの仕事の跡を見たりし
て、なんだか満腹になったような気持ちで家路につきました。

 なまこ壁にしたって、格子の細工にしたって、別に「文化」のためにしたん
じゃないでしょう。でも、これだけ集まれば、立派に文化ですよ。今となって
は貴重な文化。
 目の前の景色の中に、実は宝物がいっぱい隠れているのだということ、もっ
とたくさんの人に気づいて欲しいなぁと思いながら、今日もみかんの皮をむく
のでした。

神辺町観光協会
http://www.kannabe.net/

神辺歴史民俗資料館
http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/kannabe-rekishiminzoku/

あたらしいみかんのむきかた
http://www.shogakukan.co.jp/pr/mikan/