路面電車でGo!

八丁堀に徒歩10分、広島駅に徒歩10分という立地に住み、その上、職場
 が徒歩3分という安藤は、日頃、公共交通機関を使うことはほとんどない。
 かつて郊外に住んでいたときは、自動車も電車もバスもよく使ったのに、今
 は徒歩と自転車で事足りる。たまに徒歩十分がしんどくて使うのが路面電車。
 タクシーだと近くて悪いし、バスは路線も乗り場もよくわからない。

 路面電車の座席は横一列で、よほど混雑していない限り、どこに座っても車
 内の様子が見て取れる。妻が妊娠後期、路面電車に乗ると、目の前の男性や
 若い女性はちっとも席を譲ってくれないのに、遠くの席の中年や初老の女性
 が、「こっちに来て座りなさい」と言ってくれて、何度も席を譲ってもらっ
 たことがある。経産婦ネットワークとでもいうのだろうか、妊娠を経験した
 女同士の不思議なつながり。かつての自分の妊娠後期のしんどさを覚えてい
 るのだろうか。座席配列の違うバスや列車ではこうはいかない。

 さて、先々月に不惑を迎えた安藤は、夢見る頃なんてとっくに過ぎてはいる
 けれど、いまだに「見果てぬ夢」を持っている。

 その夢は、あまりにも稚気満々で気恥ずかしいのだが、「路面電車を運転す
 る」というものである。さすがにもう実現不可能な夢であることは分かり
 きっているが、いまだに路面電車に乗ると、運転台のそばで興味津々と操作
 盤をながめてしまう。最新の車両は、操作盤も洗練されているが、どうも面
 白味に欠ける。昭和の時代の路面電車のほうが操作盤は楽しそうだ。

 小さい男の子ってのは、飛行機や電車やバスの運転に憧れるものだけど、安
 藤の場合は、なぜか路面電車であった。列車は、運転席が見えることがまれ
 なので余り興味がわかなかったし、バスは、基本的には父親の運転する自家
 用車と操作系統が同じなのでつまらないと思ったのか。

 そんな小さい頃の夢も小学校に上がるころには興味の対象が他にうつるもの
 だけど、「路面電車を運転してみたい」という夢はいまだに持ち続けてい
 る。広島駅を出ていくつかの橋を渡り繁華街を通り生活の匂いのする町並み
 をぬけ終点に着く、己斐行きや宇品行きや江波行き。運転席からながめる、
 その風景は楽しそうじゃない?

 警察官や駅員さんや運転士さん。制服を着る職業の人は、かならず自分より
 も年上の大人だったのに、いつのまにか、自分よりも若い人がその職業に就
 いている。路面電車を運転する安藤よりも随分若い運転士さんは、路面電車
 の運転に憧れて、その職業を選んだのだろうか。定年まで大好きな路面電車
 の運転ができるなんてしあわせじゃないか。それとも仕事でしかたなく毎日
 路面電車を運転しているのかい?あくびをしながら路面電車を運転する若い
 運転士さん、どうなの?


 安藤トロワー@会社勤めをしながら家事もこなす兼業主夫