迷ってみましょう広島44

 このコーナーは、積極的に道に迷うコーナーです。

  最近、仕事がやたらに忙しかったり、身内に不幸があったり、何より暑いし、
 梅雨はなかなか明けないし……
 と、気分がとっても滅入っているのですよ。今まで大好きだったアウトドアで
 の活動もなんだか行く気にならないし。

  いけませんね、こんなことでは。何のために生きているんだか分からなくな
 ってしまいます。はてさて、こんな時にはどうしたらいいでしょうか。

  萎えた気力にむち打って、動かん頭をなんとか回して、それで出た考えが「
 夜景でも見てみますか」。いや、今更夜景なんか見たって何がどうなろうとい
 うわけじゃなし、いやいや、それでも何かになるかもしれないし。どうせ家で
 ゴロゴロしてるんだったら、ちょっと行ってみますか。

  出かけたのは広島市南区にあります黄金山です。とっても有名な夜景スポッ
 トで、僕も学生の頃から何度も行きました。夕食を食べた後、空が暗くなるの
 を待って、これまた毎日仕事でヘトヘトのかみさんを車の助手席に乗せ、出発。

  夏の夜の街では、今日の憂さをビールの気泡で押し流そうとする人々が、2
 3人ずつ連れだっては流れていくのです。暗い顔、明るい顔、ドアミラーの脇
 を流れていく人たちを横目で見ながら、きっと俺以上に疲れてる人、いるんだ
 ろうな、そんなことをぼんやり考えつつアクセルを踏みます。

  広島市内中心部を抜け、南区のマツダの工場方面へ向かうと、やがて黄金山
 への案内板が現れます。案内板の指示通りに山すその住宅街の急坂を上へ上へ
 と登っていきますと、やがて家はなくなり、道は木々の間を縫うように進みま
 す。木と木の間から、ビーズを床にばらまいたような夜景が見え始めると、頂
 上はもうすぐです。ドライバー以外の人は、この上り坂であまり周りの景色を
 見ないようにしておくと、展望台に着いてからの景色をより楽しめます。

  頂上に着くと駐車場がありますので車を止めます。売店の自販機で缶コーヒ
 ーを買い、駐車場に住み着いている野良猫に元気か等と声をかけつつ、展望台
 へ続く道を上ります。一歩、また一歩と上がるにつれ、景色が徐々に開けてき
 ます。

  初めてここに来た人は、きっと、とてもびっくりしますよ。眼下に広がる見
 事な夜景。広島駅に新幹線がやってくるところやマツダスタジアムの照明、高
 層ホテル最上階のレストランの灯りや整然と並ぶ住宅街の街路灯、翻ってみれ
 ば海上を行くフェリーの灯や灯台の点滅、遠く大竹や岩国の海岸線の灯りに黒
 い島影まで、広島市近辺を一望にできます。

  学生の頃、山登りをしていて、星を見るのが好きだったんです。だから成人
 してからもしばらくは、人工的な街の夜景が嫌いだったんですよ。自然じゃな
 いから。ところが、卒業して、下請けの下請けの、誰も喜んでやりそうにない
 ようなきつくて汚くて危険な仕事をしていたときに、夜景が大好きになりまし
 てね。
  宇宙の星は、そりゃあきれいですよ。実に素晴らしい。でも、あの星々は自
 然に出来て宇宙空間にあるんですよね。夜景はそうじゃない。あの、何万、何
 十万と見えている灯りどの一つをとってみても、どこかの誰かが一生懸命電線
 を引っ張ってきて固定し、そこに電球をつけて、それで初めてそこで光ってる
 んですよね。放っといたら蔓が勝手に伸びてきて勝手に電気が点いてますなん
 て、そんなのはひとつもないんですよ。
  おまけにあの電球が光ってるのは今この時間も誰かが電気に関わる仕事をし
 てくれているからであって……。

  あの灯りを一つ点けるのにどれだけの汗が流されたのか。そしてそれらが延
 々と積み重なりこの景色に至るまでに一体、どれだけの時間と、どれだけの労
 力と、どれだけの思いが費やされてきたのか。そんなことを考えながら缶コー
 ヒーを思い切りあおると、その苦さが、体の奥の方へ静かに浸みていくのです。

  夜景を見てちょっと楽になったように思いました。疲れてきたらまた見に来
 ようと思います。疲れている皆さんも是非どうぞ。

 注意:黄金山は夜11時から翌朝5時までは入山禁止になっています。ご注意
 ください。

                              by 自転車